2014 学業場面における誘惑対処方略の検討―自己制御の観点から― 小林 麻衣
2014 学業場面における誘惑対処方略の検討―自己制御の観点から― 小林 麻衣
小林 麻衣 | 立正大学 心理学部
日本パーソナリティ心理学会
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序論
“自分自身をコントロールする力の総称であり,様々な目標と思考・感情・行動による基準の中で,目標と基準を満足させるために目標設定や目標管理を行う全般的プロセス(e.g., Carver & Scheier, 1982, 1990)”として定義されており,人々の制御を助けるものである。
自己統制とは自己制御のなかの一つに組み込まれており,目標と誘惑といった 2 つの動機づけ間の葛藤が生じたときに焦点をあてた際に,誘惑に負けずに目標を優先させるプロセスとして捉えられている(Ainslie, 1975)。 第 1 章 目標研究の概観と考察
第2節 目標の概念と構造
目標とは,“望まれた最終状態の心的表象”として定義される(e.g., Austin & Vancouver, 1996; Fujita & Macgregor, 2012)。先述したように,目標は動機づけにも深く関わっており,広範で抽象的な動機システムの認知表象としても捉えられる。このような目標は“目標内容”と“目標プロセス”の2側面によって構成されている。 第3節 目標の次元
(2)接近・回避志向
接近動機は特定の最終状態に焦点をあて, 現在と望ましい最終状態との乖離を減らす行動のみを促進する。目標追求を行ううえで必要な目標努力(goal striving)は,この乖離の程度によって開始・維持される。一方で回避動機は現在と望ましくない最終状態との乖離を広げるあらゆる行動を促進する。 (3)内発的・外発的動機づけ
内発的動機づけと外発的動機づけは,個人的な満足感や生産性にとって重要である(e.g., Deci, 1971)。内発的動機づけとは,“行為そのもののために遂行させる動因”であり,行為自体が目的となる。外発的動機づけとは,“より大きな目標のために行為を遂行させる動因” であり,行為は何らかの結果を得るための手段となる。学業に対する動機づけを例にあげると,内発的動機づけは“学業に対する好奇心や関心を高めること”であり,外発的動機づけは“テストの点数を高める”ことになる。 内発的動機づけと外発的動機づけに関しては,帰属と欲求の2つの観点から説明される。帰属の観点では,内発的動機づけと外発的動機づけはともに帰属の結果であると説明される。これは Bem(1967)の自己知覚理論に基づいており,行動の原因が活動自体にあると知覚されるときに内発的動機づけが高まり,活動以外の何かに原因があると知覚されるときに外発的動機づけが高まる(Kruglanski et al., 1978)。欲求という観点では,コンピテンスと自律性という2つの基本的な心理的欲求が影響するとみられている(Deci & Ryan, 1985)。コンピテンスとは,自分の可能性を示し,拡張したいという欲求であり,自律性は自分の活動を自由に選択したいという欲求である。内発的に興味を持った行為の遂行中には,この 2 つの欲求は維持され,内発的動機づけは高まる。ただし2つの欲求が満たされない課題や環境では,内発的動機づけは弱まり,外発的動機づけが強まる。例えば,自主的に英会話に関心をもって英会話教室に通った場合に内発的動機づけは高まるが,英会話教室でレベルが上がるごとに賞金がもらえる場合は,外発的動機づけを高めることになるだろう。 ➝今(220324)は外発的動機づけが高まっている感覚が強い.また,つい脱線してしまい,自律性が満たされていない感覚がある.
(4)習得・遂行目標
人が何かを達成しよう,達成したいという動機を達成動機とよぶ。達成動機とは社会的欲求の中の1つである(Murray, 1938)。Dweck(1986)の達成目標モデルでは,達成動機づけを,有能さを希求する動機づけとして定義し(Dweck & Elliot, 1983; Schutz, 1994; 上淵・川瀬, 1995),特に,高い能力を追求するための人々の知能観(固定理論/増大理論)に対応させて,習得・遂行目標の2つを区別している(Ames & Archer, 1988)。まず習得目標は,新しいスキルの学習によってコンピテンスを増大することに焦点をあて,スキルや能力の習得を通してコンピテンスを高める学習過程によって促される。これは,成功を努力に帰属することで目標努力の継続が促され,失敗を努力不足に帰属することで再試行と更なる努力が促される(Dweck & Leggett, 1988)。一方,遂行目標は成功によってコンピテンスを証明することに焦点をあて,他者から良いコンピテンス評価を得るために努力する遂行過程によって促される。これは,成功が自分の特性に帰属されるとポジティブな結果が促されるが,失敗が安定的な特性に帰属されると,学習的無力感や目標からの離脱が促される。 習得目標は課題への内発的な興味を予測するが,遂行目標は実際により良いパフォーマンスを予測する(e.g., Barron & Harackiewicz, 2001)
第2章 自己制御・自己統制研究の概観と考察
第2節 自己制御・自己統制プロセスモデルの概観
(2)自己統制プロセスモデル
1) 自己統制の2段階モデル
yrseth & Fishbach(2009)では,“誘惑への無抵抗(indulgence)”と“高次目標の追求” 間の葛藤をどのように決定するかについて自己統制の2段階モデルを提唱している。“誘惑への無抵抗”とは,誘惑に対して特に節制しないことや,過剰に消費をしてしまうことを指す。 https://gyazo.com/dfed0fde338e89cb33d07051ea1e907c
2)自己統制のサイバネティックプロセスモデル
自己統制のサイバネティックプロセスモデル(Magen & Gross, 2010)は,サイバネティックコントロールモデル(Carver & Scheier, 1982)と情動制御のプロセスモデル(Gross, 1998)を統合したモデルである。このモデルでは,コントロール理論のモデルを基盤とし,さら に“目標”と“知覚”間に双方向的なリンクを加えている。このモデルでは,目標が知覚にバイアスを与えて目標を維持・強化すること(例:環境手がかりによる目標の活性化)もモデルの中に含まれている(図 2-3)。また,情動制御の知見から得られた情動制御方略をモデルに反映させている。その理由としては,情動はサイバネティック・コントロールモデルにおける“衝動”と同様に機能すると仮定しているからである。情動制御とは,例えば,友人の幸福に対する妬みといった情動自体の制御と,情動の表出の制御が含まれる(Gross & John, 2003)。このモデルでは,プロセスの各段階(環境/知覚(入力機能)/比較器/行動(出力機能))において適切な情動制御方略を実行すると“衝動”の行動化を防ぐことが可能であると説明している。 “状況選択”は,事前に誘惑が生起しづらい状況を選択することであり,プロセスの段階では“環境”において作用すると考えられている。また,“状況選択”が困難なときの方略として“状況修正(方略的に状況を変化させること)”があるが,“状況選択”との区別はしにくい。両者の例として,勉強したいときに,誘惑(漫画やゲーム)の多い自室ではなく,図書館に行って勉強するといったことがあげられる。 次の“注意配分”は,状況にアプローチできないときに,注意をむける方向を変えることである。プロセスでは,“知覚 (入力機能)”において作用する。例えば,気晴らし(別の活動に注意を向ける)があげられる。 “認知変容”は,プロセスにおいて“比較器”の段階で作用する方略であり,衝動を生起するような対象に注意を向けてしまった場合に,そのときの状況や刺激,あるいは目標の捉え方を意図的に変換する方略のことである。例えば,美味しそうなマシュマロを我慢するために“白くて固い雲”として解釈することがあげられる。 最後の“反応修正”は, “行動(出力機能)”の段階で作用し,なかば強制的に衝動に抗い,目標に従う方略である。 例としては,勉強しなくてはいけないときに机に置いてある漫画を我慢し,勉強することがあげられる。これら5つの方略をプロセスの各段階で働かせることで,自己統制の成功を導くことができると考えられている。
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第3節 自己制御に失敗する原因
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(1)葛藤認識による自己制御の失敗
自己制御の失敗は,そもそも自己統制葛藤の同定に失敗しているのかもしれない(Fishbach & Converse, 2010)。Fishbach & Zhang(2008)は,目標と誘惑が“葛藤”ではなく,“補完”しあう関係であることを知覚すると,目標に対する動機づけを弱め,誘惑に対する動機づけを高めることを示した。例えばこの研究では,先に参加者に健康的な食べ物と不健康な食べ物の画像を呈示した。葛藤誘導条件では,目標と誘惑の葛藤を誘導するために2枚の別々の画像として呈示した。補完誘導条件では,目標と誘惑の補完を誘導するために1枚の画像で一緒に目標と誘惑を呈示した。統制条件では目標と誘惑それぞれの実験セッションに分けて呈示した。結果は,葛藤誘導条件では不健康な食べ物よりも健康的な食べ物の価値を高めていたが.葛藤補完条件では,健康的な食べ物よりも不健康な食べ物の価値を高めていた(統制条件では両者の価値に差はみられなかった)。この目標と誘惑の補完の知覚は,知覚者に目標と誘惑のバランスをとる方略を選択させる可能性を高め,誘惑を先に目標を後で行うことを促進することが想定される。このように誘惑を優先して選択することを繰り返し行うことで,自己制御プロセスを生起させずに魅力的な誘惑を追求することが正当だと感じられるようになることが考えられる(Fishbach & Converse, 2010)。
誘惑と目標を同時に受けると,誘惑を優先しがち
誘惑を正当化し,そもそも葛藤の対象にできていない可能性がある.→何が正解かわからない現代社会では,これになりがち.自分の常識を持って厳しく当たれない.
(2)自我枯渇による自己制御の失敗
自己制御は,限られた資源に依存するといわれている。自己制御の限られた資源モデルによると,自己制御の全ての行為は1つの限られた資源から引き出されており,その資源は使用されると消耗,枯渇する(Baumeister & Heatherton, 1996; Baumeister, Heatherton, &Tice, 1994; Dewall, Baumeister, Stillman, & Galliot, 2007; Muraven & Baumeister, 2000; Muraven,Tice, & Baumeister, 1998; Vohs, Baumeister, & Ciarocco, 2005)。つまり自己制御は使いすぎると疲労し,その後の自己制御が難しくなり失敗する可能性が高くなるといえる。例えば, Vohs, Baumeister, Schmeichel, Twenge, Tice, & Nelson(2008)は,資源を消耗した後には,自己制御に失敗しやすくなることを示している。この実験では,何度も意思決定させることで,自我消耗が生じた条件は,意思決定をしなかった条件(統制条件)に比べて,後続の課題(参加者は数学のテストを行うことを事前に知らされていた)までの待ち時間に,テスト勉強をせずに雑誌を読んだり,ゲームをしたりして過ごしていた。その他にも,Baumeister, Bratslavsky, Muraven, & Tice(1998)は,味覚の実験と称して,参加者の前にクッキーと廿日大根が別々に入った2つの器を置いた。参加者は,どちらか一方を食べる条件と,どちらも食べない統制条件に割り振られた。その後,パズル課題に従事させたところ,廿日大根を食べさせられた条件の参加者は他の条件に比べてパズル課題を解くことを諦めるのが早かった。最近では,自己制御は血中のブドウ糖に依存する能力であり(Galliot,Baumeister, Dewall, Manner, Plant, Tice, Brewer, & Schmeichel, 2007),自己制御の失敗は血糖値の低下が原因の1つであることも示唆されている。Galliot et al.(2007)は,ビデオを観ている間に,注意を制御しなくてはならなかった参加者は,注意を制御する必要のなかった参加者に比べて,血中のブドウ糖の量が減少していた。また,血中のブドウ糖の量は,後続の自己制御課題をポジティブに予測していた。 (3)願望の処理による自己制御の失敗
先述したとおり,誘惑には願望や欲求といった動機づけ的内容が含まれる。自己制御の失敗の原因を考えるうえで,動機づけ的な観点は重要であろう。Hofmann & Van Dillen(2012)は,願望がどのように誘惑に変化し,自己制御失敗の原因となるかについて“願望のダイナミックモデル(dynamical model of desire)”を提唱している。願望とは“快”または“不快の除去”と連合した対象,人,活動に対して感情的に充たされた動機づけとして定義されている。つまり願望は,一般的な動機と類似しているが,あくまで人や対象についての動機のことを指す。願望は,自己制御的な目標と葛藤することによって誘惑に変化する (Hofmann, Baumeister, Föster, & Vohs, 2012)。願望のダイナミックモデルで想定するプロセスでは,願望は刺激の性質や内的欲求,個人の学習歴(learning history)の相互作用から生じると仮定されている。そういった願望は,脳の中枢にある自動的な報酬処理として,報酬価値に対する感情処理が生起する。この自動的な感情処理において,ワーキングメモリのアクセスを達成すると,その願望は意識的経験となり自己制御が可能となる。つまり,ワーキングメモリへアクセスしなければ,自動的な感情反応はそのまま衝動や習慣的反応を誘発する可能性を生じさせる(Heatherton & Wagner, 2011; Hofmann et al., 2009)。しかしながら,ワーキングメモリにアクセスして願望が意識的に経験されたとしても,全てが自己制御の成功を導くわけではない。願望が意識的に経験された時点で,さらに認知的精緻化を誘発する可能性があるからである(Kavanagh et al., 2005)。この認知的精緻化はワーキングメモリの資源を提供すればするほど,認知的精緻化も得られる。ただし,一般的な自己制御状況では,ワーキングメモリの限りある資源をめぐって目標と願望(誘惑)が競合するため(Baars & Franklin, 2003; Kemps, Tiggemann & Grigg, 2008),効果的に下方制御されない限り,願望は認知的精緻化による反芻が生じ,誘惑に対して無節制(indulgence)になることを許可することになる。 (4)誘惑の強度や利用可能性による自己制御の失敗
日常生活を営むうえで誘惑を目にする機会は多く,利用可能な環境が自己制御の失敗を導くこともある。先行研究では,誘惑の活性化は,誘惑に対して無抵抗になる衝動を活性化することが示されている。例えば,食べ物手がかり(画像呈示や香り)はダイエッターの空腹感をより高く報告させることがわかっている(e.g., Fedoroff, Polivy, & Herman, 1997, 2003)。その他にも Papies, Stroebe, & Aarts(2008)では,過食傾向のあるダイエッターに魅力的な食べ物を呈示したときに,魅力的な食べ物(誘惑)について快楽的に楽しむ目標が活性化されることで,ダイエット目標を抑制することが示されている。これらの結果は,意識的熟慮がほとんどなくても衝動の活性化が生じることが示唆される。このように,魅力的な誘惑に直面しても,目標の活性化をしなければ自己制御に失敗する。この考えはダイエット領域において,食の目標葛藤モデルとして支持されている(Stroebe, Mensink, Aarts, Schut, Kruglanski, 2008)。 その他にも誘惑の強度が強い(抑制することが難しい)ときも自己制御失敗が生じる可能性を高めるだろう。先行研究においてもアルコール摂取や喫煙などの領域で検討されているが,アルコール(または,たばこ)とポジティブな感情価との連合が強い人は,相対的に過剰にアルコール(または,たばこ)を摂取しやいことが示されている(e.g., De Houwer, Custers, & De Clercq, 2006; Huijding & de Jong, 2006)。これらの結果から,誘惑の強度(魅力度)の強さは,人々の注意を自動的に引きだし自己統制をより失敗させやすくすることが指摘されている。この結果は先述した願望のダイナミックモデルにおいても支持されると考えられる。
第8章 総合考察(p119~121)
第1節 本研究のまとめ
本章では,まず,第4章から第7章で行われた実証研究で得られた結果についてまとめ,本論文の実証研究全体を通しての総括を行う。その後,本研究の意義,本研究における問題点と今後の課題,本研究の応用可能性について述べる。
(1)第4章の概要
第4章では,学業場面において人々がどのような自己統制葛藤を経験し,どのような自己制御方略を使用しているかを把握することを目的とした。研究1では,大学生を対象に,学業場面における自己統制葛藤について調査を実施した。自由記述で回答を求めた結果,人々の学業場面における自己統制葛藤状況が明らかになった。例えば,人々が学業目標の“誘惑”として捉える事柄には,先行研究において研究者側が想定していた“誘惑”に一致するものも多くあげられたが(例:娯楽など),一方で“生理的欲求(例:眠気)”や“身体的要因(例:飽き)”といった先行研究ではあまり“誘惑”として取り上げられてこなかった事柄も抽出されていた。また,“誘惑に対する対処方略”については,誘惑に対する回避や目標の確認といった,先行研究でも重視されている自己制御・自己統制方略が多く得られたほか,興味深いことに“誘惑と目標の両立”という方法も含まれていた。さらに,“自己統制葛藤時に誘惑を優先するときの状況”については,自己制御の失敗要因に関する先行研究を支持する結果であった。 (2) 第5章の概要
第5章では,誘惑対処方略の尺度を開発することを目的とした。この尺度は,学業場面全般における自己統制葛藤状況を想定しており,研究2では項目の選定を行った。その結果,4つの誘惑対処方略(目標意味確認方略・気分転換方略・誘惑回避方略・目標実行方略)が抽出された。目標意味確認とは,目標の重要性や利益を考える方略である。気分転換方略とは,気分をかえて目標に対してやる気をだすという方略である。誘惑回避方略は,誘惑を避ける,または誘惑のない環境を作り出す方略である。目標実行方略とは,とりあえず目標をまずやってみるという方略である。項目は全部で20項目あり,誘惑対処方略の使用度合を測定する尺度(誘惑対処方略尺度)が開発された。研究3では,再検査信頼性を確認し,研究4では妥当性の検討として基準関連妥当性が確認された。しかしながら,誘惑対処方略が目標達成に近づくにつれて人々にどのように使用されているかといった時系列変化については検討されてこなかったため,誘惑対処方略の使用に関する検討の必要性が述べられた。 (3) 第6章の概要
第6章では,前章で作成した誘惑対処方略尺度を用いて,日常生活において誘惑対処方略がどのように人々に使用され,機能しているのかについて検討を行った。まず研究5では,誘惑対処方略の全般的な有効性について検討を行った。自己制御プロセスを想定し,誘惑対処方略が“自己制御の実行”として目標関連行動に有効であることかを確認したところ,全般的な誘惑対処方略の使用が目標関連行動に正の影響をもたらしていた。次に研究6では,モバイル調査によって,誘惑対処方略の使用の時系列変化について検討を行った。具体的には,誘惑対処方略の使用程度を毎日測定し,人々が2週間後の目標達成に向けて,どのように方略を使用するのかを検討した。その結果,誘惑対処方略の使用は,目標勾配仮説と一致する結果が得られた。つまり,目標達成に最も時間的に近くなると,誘惑対処方略の使用も最も高まることが明らかになった。
(4) 第7章の概要
第7章では,状況による自己制御方略の使用や選択の変化について検討を行った。
研究7では,目標達成の困難度の違いによって,誘惑対処方略の各方略の有効性が異なることが示された。目標達成が容易な目標条件においては目標意味確認方略,困難な目標条件においては誘惑回避方略が有効であることが示された。また,目標達成が容易な目標と困難な目標ともに,目標実行方略が有効であることも示された。これらの結果から,目標達成が容易な目標では,目標に対する動機づけを高めるような方略が有効に働くことが考えられる。また,目標達成が困難な目標では,誘惑を回避してストイックに目標実行を行うような方略が有効に働くといえる。しかしながら,気分転換方略の有効性については確認ができなかったが,自己制御の成功の指標が気分転換方略に適さなかった可能性があることが考えられる。 研究8では,設定目標の違いとして,達成目標(遂行目標・習得目標)の違いによって誘惑対処方略の使用と目標関連行動および動機づけと関連がどのように変化するかについて探索的に検討を行った。その結果,遂行目標条件においては,主観的労力や成績との関連が強く,習得目標条件においては,内発的動機づけとの関連が強くみられており,達成目標研究の先行研究とも一致する結果が得られた。結果から,誘惑対処方略は,目標に関連する動機づけや行動を高める可能性があることが示唆された